ある日、健美家から提案メールが来た。
内容を見ると、築20年くらいの比較的築浅物件。5000万で、利回りは9.8%くらいある。
なかなかええやん!
と淡い期待を込めて、問い合わせをした。
すると、すぐにその会社の若者から電話があった。
思い合わせありがとうございます。この物件ですが、非公開案件のため、一度来社いただいて、お話しをしたいのですが…。
もちろんOKです。
西天満
この不動産屋さんは、西天満にある。
仕事を早めに切り上げて、北浜から南森町へ向かった。
梅田からも、南森町からも徒歩10分くらいのなんとも微妙な距離。
昔、南森町の事務所に勤めていた事を懐かしみながら、一号線沿いを歩いて、不動産屋へ向かう。
またもや場所を見失いながらも時間通りに到着した。
出てきたのは、想像していた通りの爽やかな若造だった。高良健吾の弟って感じだ。
会議室に案内され、待つ事2分。
高良くんがお茶を持ってきた。
ついでに少しヤンチャ感のある加藤晴彦みたいな上席が一緒だった。
物件の確認
「お問い合わせの物件の資料はこちらです。」
と高良くんが言った。
僕は、ぶっちゃけた話、初めてまともな物件情報を見た。
レントロールしかり、登記簿謄本しかり。
別に隠す事でもないが、舐められるのもシャクなので、ちょっと知った風な雰囲気を出す。
多分、バレバレだけど。
肝心の物件は、三角形の少し歪な形をしていた。
形は歪だがファミリータイプで、安定はしてそうだ。
容積率は、7%オーバーの違法建築。
値段は税込5000万だから、実質4500万ってところだろうか。
所有者は、どっかの会社。その前もどっかの会社。元々のオーナーから、オーナー妻に渡って、すぐに売りに出されている。旦那が亡くなって手放したのだろうか?
多分、1社目は、このオーナー妻から安く買って、儲けを出したのだろう。
2社目は、そこから多少は安く買って、今売ろうとしている?
いわゆる二番煎じだけど、売り切れずに一年が経過していて少し苦労してるのだろう。
利回りは9.8%と悪くないし、多分このどこぞの会社は早く捌きたいんだろうなぁ、とか色々と思っていたところで、声がかかった。
「物件探されて長いんですか?」
と、加藤晴彦が言う。
「まだ始めたばかりで…。本気で探してるのは、ここ2〜3ヶ月です。」
と僕。
そんなこんなで色んな話をした。
サラリーマンへの融資
「今、サラリーマンさんの融資は本当に厳しいです」
加藤春彦が言う。
「例の事件から、サラリーマンへの融資が出なくなって。一束さんの属性もありますが、やはりある程度の自己資金がないと厳しいです。
この物件は5000万ですが、評価額は恐らく4000万。つまり残り1000万を自己資金で、補填しないと買えません。諸費用で350万くらいかかりますから、ちょっと今の状況では厳しいと思います。
現実的なところでいくと、自己資金400万であれば2000万くらいのアパートが買えるかどうかです。諸費用140万。物件価格の1割の200万を自己資金で補填して…と言った具合です。
ですので、この物件だと、年収1000万の人が1000万自己資金があってやっと買えるかどうかぐらいになります。」
加藤晴彦は、丁寧な言い回しで
“あんたにはちょっと無理ね”
と言ってきた。
僕は好感を持った。
嘘は嫌いだから。
多分、加藤晴彦は嘘はつかない。
色々と話を聞く。
まとめると次のような話。
・信金の方が融資が厳しい。
・ノンバンクの方が融資はしてくれる。ただし物件による。物件の価値がなければ融資はまず無理。
・自己資金は重要。使わなくても、持っていると言うだけで価値がある。見せ金的なものでもあった方が良い。
・共同担保は使えるかも。(自宅区分マンションが800万で買って残債200万なので、600万くらいの担保余力があるかも)
・区分マンションはやめた方がいい。
・土地がないと銀行の評価額が低くなりがちで、融資額が少なくなる。
・年収1000万+自己資金1000万で、5000万くらいの物件が買える。
・年収750万+自己資金400万の私は、2000万くらいが限界。
・良い物件はすぐに売れる。融資の調整していたら現金でもって行かれる事も多々ある。
・サラリーマンの問合せはめちゃくちゃ多い。
こんなところでしょうか。
今後
「これから、物件があれば紹介させてもらっても良いでしょうか?」
と加藤晴彦が言う。
「良いですよ。よろしくお願いします。」
断る理由などない。
なぜ、こんな言い方をするのかが謎だった。
物件紹介して欲しくて不動産屋に来ているのだ。
物件を紹介して欲しいに決まっている。
冷やかしが多いのか?
逆に何か裏があるのか不安になる。
最後にひとつだけ聞いてみた。
「戸建はどうですか?」
前回は「戸建が良い」と、かなりごり押しされた感があったからだ。
加藤晴彦が言う。
「戸建は悪くはないですが、好みですね。あまりないですが、もし人が亡くなったりしたら、次は安く貸さないといけなくなる。もしその人がずっと借りてしまうと安いままいって、CFが悪くなる。要はリスクがあるので、あまりオススメはしません。」
「あとは戸建をやっている人が『一棟を買いたい』と言う事はあるけれど、その逆はほぼありません。なので、一棟を買えるなら一棟ですよ」
それなりに説得力があった。
不意に、
「戸建もお考えですか?」
と聞かれ、
「一棟が無理だったら、戸建も検討してます」
と、あくまで一棟ものがメインである事を伝えた。
とりあえず、顔つなぎして、次の物件探しを進めることにする。
そして自己資金をもっと貯めないといけない。
と改めて感じた。